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『アンドロメダな朝』美少女とご主人様の愛の物語・毎日過激に更新中 

【絶対R18】愛故に奴隷になった美少女と愛する者を責め苛まずにはいられない男の愛の行方は。

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☆ その2630=愛しい焼き痕。

 何時しか車窓には緑が溢れていた。 三宅の左手が太腿から離れ、高速を降りた事を咲織は知った。 三宅の掌が置かれていた肌が失った温もりを求めて微かに疼いた。 隣を走るトラックに気付き、咲織はドレスの裾を慌てて戻した。

「触り心地のいい脚だ。 そして暖かい。 生きてるのが判る。 精一杯に。 それが、俺を受け入れている。 安心して。 それが、嬉しく、心地いい。」
「私の脚で良ければ何時でもどうぞ。 ご自由に。」
 そう言って、三宅の横顔を見た。 咲織は何時になく心に穏やかなゆとりがあるのを感じた。 心が滑らかに暖かな湯船で揺蕩っている様だった。 

「当たり前だ。 お前は俺の物なんだから、脚ももちろん俺の物だ。 見せなさい。」
「は、はい。」
 咲織は恥ずかしさに胸を動悸させながらも、当然の様にみずからドレスの裾を捲り上げた。 横目で見る三宅の視線がちくちくと肌で遊ぶ。 求められ、そして悦ばれている事が嬉しかった。 それだけで、捲り上げたシルクの奥が潤うのを止められなかった。 

「今日はパンツを穿いているんだったな。」
「はい。 ご主人様が穿いていいと仰ったので。」
 咲織はドレスを更にちろりと捲ってショーツの端を見せた。
「ピンクか。 お前の白い肌には良く合う。 グローブボックスの中にローターがある。 お満子の中に入れなさい。」
「は、はい。」
 動悸が早まる。 羞恥の底にある興奮から指先が震え、二度も開け損なった。 如何にもそれと判る毳毳しいまでに桃色のローターが咲織の瞳を射る。 つるりとした卵大のローターからは十センチほどの細いコードが出ていた。 

『きっと、ご主人様は、車を降りて人混みの中を歩いている時にスイッチを入れられるお積り。 そして、声を我慢して身悶える私を見て、お嗤いになる積り。 ご主人様が私で愉しまれたいんだから。 ご主人様に望まれているんだから。』

 覚悟はしても、掌にしたローターの重さに胸が縮まった。 早鐘を打つ心臓の鼓動が聞こえる。 三宅の横顔をちらりと盗んだ。 遠い車線に眼を走らせた精悍な表情の下で玩具の箱を開く子供の様な笑みを隠している気がした。 

 ショーツの下に潜り込ませる。 麗子が手当てをしてくれた絆創膏の上をローターが擦る。 焼き痕がじんと存在を主張する。 咲織の掌が止まった。 

『あぁ、ご主人様のお印。 一生消えない奴隷の証し。 咲織は何処までもご主人様の物。』

 ずむと感悩が咲織の腰から拡がった。


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☆ その2631=かまってください。

 もう、咲織の瞳からは景色も隣の車の存在も消えていた。 見えていたのは瞳の端に映る三宅の顔だけだった。 脚を端なく開き、腰を浮かせる。 ローターの尖った方を秘唇に宛がった。

『濡れてる。 婬らな女。 婬らな奴麗。 こんな私をご主人様は妻に・・・。』

 そこが既に潤っていた事に自分でも驚いた。 予想に反して、ローターはにゅるりと咲織の中に入っていった。 まるで、秘部が呑み込んだ様に。

 ローターの底に広げられた秘唇がじわりと閉じていった。 それと同時に、ローターの形がくっきりと咲織の躯の中で出来ていく。 声が、甘い感悩の声が喉を擽った。 咲織は慌ててドレスの裾を直し、お行儀よくすらりと伸びた膝下を斜めに流した。

「脚を隠していいとは言っていない。 俺の物の筈だ。 パンツが丸見えになるまで捲り上げなさい。」
 三宅は前を向いたまま命じた。
「はい、すいません。」
 咲織は何も考えずに腰を浮かし、腰までドレスの裾を捲り上げた。 桜色に上気した太腿が自分の眼にも鮮やかだった。 三宅が一瞬、咲織の姿を確認した。 それだけで、揃えた脚がそぞろに燃え立つ。 ローターを飲み込んだ秘部が蠢いた。 

「いい眺めだ。 だが、胸が寂しがってはいないか。」
 三宅は少しおどけた口調で言った。
「いいえ。 ご主人様の隣に居られて幸せを噛み締めています。」
 咲織はシフトレバーを握る三宅の手に自分の掌を軽く重ねた。 力強さと暖かさが掌から浸み込んでくる。 咲織はうっとりと瞳を閉じた。 

「いや寂しがっている筈だ。 構って欲しいとな。」
 信号待ちで止まると、三宅は咲織のレースを重ねた胸元のスリットに左手を滑り込ませてきた。 咲織は自らブラを擦らし、三宅の手を導く。 三宅の手が我が物顔に咲織の胸球を鷲掴みに掴む。 その弾力をその柔肌の滑らかさを愉しむ様な揉み方ではなかった。 弾む肉と一緒に女の想いを握り潰す様な強い力で三宅は咲織の胸球を揉んだ。 潰された胸が悲鳴を上げる。

「あぁ。 ご主人様。」
 鋭く思い電気が躯中を駆け巡った。 胸球が千切れるかと言う痛みだった。 にも拘らず咲織の掌はドレスの上から三宅の手を掴んだままその手を引き離そうとはしなかった。むしろ自分の胸に押し付けるかの様に三宅の手に重ねたままだった。 痛みが肉を痺れさせ、その後から感悩が肉を震わせる様だった。 咲織は痛みに頬を強張らせながらも、ぽってりとした唇をふわりと開き、熱い吐息を漏らす。

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☆ その2632=名残の痛み。

「感じたか。 胸を千切れるほど鷲掴みにされて。」
 信号が青に変わり、咲織の胸は蹂躙から解放された。 痛みの名残が咲織の躯を染みていく。 
「はい。 感じました。」
 そう恥ずかしい事を正直に告白する恥ずかしさに咲織の躯が熱を持つ。 

『本当に咲織は婬らな女でした。 ご主人様はこんな婬らな奴麗がいいと仰ってくれるんですね。 ご主人様の前で、咲織は自分に正直になれる。 こんな自分を愛せる。 この大き過ぎる胸もご主人様に揉まれると嬉しく思えます。 ご主人様の奴麗で良かった。 ご主人様に出会えて良かった。』

 咲織はほぉと熱い瞳で三宅を見詰めた。 見詰める先から躯が蕩けていくのを感じる。 時間も空間も歪み、自分と三宅だけがその歪んだ世界の中で唯一の確かな存在に思えた。
 案に相違して、三宅が咲織の肌に触れたのはそれきりだった。 ローターも咲織の中で唸りを上げる事は無かった。 咲織の躯は遣り場の無い疼きに内側で身悶えし、意識の全ては婬らに曇った。 三宅の手にそっと掌を重ねる。 振り解かれる事の無い歓びに咲織は胸をいっぱいにした。 三宅の無骨な手の感触が咲織を包み込む。 咲織は時を忘れた。

 咲織側の車窓には再び海が広がっていた。 三宅の方を向けば小高い崖が続いている。 切通しを抜けるとアパートが連なりだし、人の営みが、日常のさんざめきが感じられた。 フロントガラスの先には江の島の黒いシルエットが浮かんでいる。 咲織には馴染んだ光景だった。 その光景が咲織を甘い疼きが満ちた微睡から引き起こした。 

『何度もここをお父さんの車で通った。 ついこの前まで。 この先の店でソフトクリームを一緒に・・・。 お父さんはもういない。 あの頃の私も。 私はご主人様の奴麗になって、この街をこんなに婬らな姿で走っている。 みんな、元旦の清らかな日を祝っているのに。』

 途端、あられもなく剥き出しにした太腿が性の香りも生々しくその瞳に映り出す。 桜色の肌よりもやや濃いショーツの下で今もどくどくと喘ぐ秘唇の存在が場違いに婬らな物に感じられた。 まして、まだ陽が高い時にその奥に性の玩具を忍ばせている事など考える事も許されない気がする。 咲織はドレスの裾を下す事も出来ずにもぞもぞと腰を動かした。 咲織は三宅の顔を祈る気持ちで見た。

「自分の生まれ育った街で、端なくパンツまで見せているのがいたたまれなくなったか。 残念だったな。 俺の様なサディストの妻になって。 お前には人に誇れるような暮らしは出来ない。 俺の妻である前にお前は刻印された奴麗でしかないのだからな。 生涯、恥を忍んで生きろ。 俺のために。 俺のために身も心もずたずたに引き裂かれながら、邪な悦びに身を震わせ続けろ。 鳴き続けろ。」   
 三宅は静かに宣告した。

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☆ その2633=悪魔の魅力。

「他の女達からどれだけ蔑みの眼差しで見られようと、男達の好色な眼に晒されようと、お前は俺だけを見ていればいい。 俺の命令だけを聞いて、それに従っていればいい。 お前は生涯俺の奴麗だ。」
 三宅の口調は熱かった。 
「はい。 奴麗でいられて幸せです。 一生、お仕えさせてください。 一生、ご主人様のご命令に従わせてください。」
 咲織は三宅の言葉に肉を熱く励起させた。 肉の疼きを超えた堪らなく熱く甘い思いに満たされ、咲織はその大きな瞳から涙を流した。 
「いい奴麗だ。」
 交差点で止まると、三宅は指先で咲織の涙を拭った。 その指に絡ませた咲織の細い指を三宅は振り解かなかった。 

 車は江の島が大きく浮かぶ海を離れた。 進むにつれて街道から生々しい生活感が薄れていく。 車は小高い丘を登った。 オレンジ色のフロントフードに木々の緑が映り込む。 家は前よりも立ち並んでいるのに、人の営みの淀みは薄れ、空気は余所余所しさを纏ってしんと澄んでいるようだった。 背後のエンジン音だけが静寂を切り裂いていた。 先に見える小さな四つ角を曲がればすぐに家だった。 咲織は緊張に背筋を伸ばした。 同時に微かな不安が胸に刺さった。

「ここで良かったか。」
 一際高い塀の前に三宅は車を止めた。 三宅の掌が咲織のドレスの裾を下した。 その長い指の繊細な動きに咲織は胸に刺さった不安が溶けていくのを感じた。
「好きです。」
 咲織は三宅の掌を押し頂き、唇を寄せた。 三宅は為すに任せていてくれた。 また、涙が零れた。
「馬鹿な奴だ。 悪魔だと知っている癖に。」
「悪魔は魅力的だから、悪魔になれるんですよ。」
「そうか。 褒め言葉と取っておこう。」
 珍しい三宅の照れ笑いを心に留めて置こうと咲織は思った。 

 三宅がおどけた仕草で恭しくドアを開けた。 慌てて降りようとして普通の車よりかなり高いサイドシルに咲織は少し蹌踉けた。 ハイヒールを履いた足に痛みが走った。 

『まだ立っているだけでもご主人様に打たれた足が痛い。 まるで、王子様に恋したばっかりに歩く度にナイフで刺される様な痛みを与えられた人魚姫みたい。 この先、私も捨てられて泡と消えるの? それでもいい。 人魚姫と違って、私は一時でも妻にと言われたのだから。』  

 咲織は躯を支えてくれた三宅の肩に頬を預けた。 車に乗った時から感じていた言い知れぬ不安は消えていた。

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☆ その2634=父の面影。

「面談の予約を電話でさせて頂いた三宅でございます。」
 三宅は咲織に先んじて、インターフォンに向かって言った。
「はい。 お待ちいたしておりました。 ただ今、門を開けます。」
 柔らかな女の声が答えると、背の高いイングランド風の意匠を凝らした門扉が自動で開く。 咲織は三宅の後に続いて敷石の上を進んだ。 左右の花壇には花は無く、土が寂し気に露出していた。 

『こんなにこの敷石は小さかった? そして、こんなに玄関は近かった? 変わってないと思っていたけど、私でも成長したの? ううん、成長なんてしていない。 あの頃と同じ。 お父さんがいないと不安になり、その掌に繋がれていると安らかになったあの頃と。 ちっとも、成長していない。』

 父の大きな掌と背中が今瞳の前にいる三宅のそれらとが重なった。 

『母に会う。 ご主人様と一緒に。 どう言う顔をすればいい? 見抜かれる。 きっと。 単なる恋人ではない事を。 だって、同じ血が、奴麗の血が流れているんだから。』

 咲織は三宅の背に隠れるように玄関ポーチに立っていた。 

「いらっしゃいませ。 お待ちいたしておりました。」
 落ち着きの中にも女性らしい嫋やかさが滲んだ声が小さなスピーカから聞こえてきた。

『母の声。 何時も優しい顔をしていた母の声。 見知らぬ男に全裸で縛られ、鞭打たれながら発していたあの婬らな耳を塞ぎたくなる様な声とは全く違う母の声。 この声の裏に隠しているあの声がまだ耳の底に残っている。 母はまだ見知らぬ人に打たれいるの? そして、あの陶酔した顔を見せているの? それは、私の声、私の顔。 怖い、母の顔を見るのが、私の顔を見せるのが。 怖い。』

 咲織は背後から三宅の腕に取る。 三宅は振り返り、柔らかな笑みを見せた。 

「ただ今。」
 鍵を外す音に咲織はぴくんと躯を強張らせた。 その拍子に自ら躯の奥に埋めたバイブが存在を示す。 ずんと予期しない感悩が胸に迫り上がってくる。  

「全て俺が話すから。」
 三宅の優しい声に咲織は頷く。 頷きながら、咲織は三宅の腕にしがみ付いていた。 その頼もしさに溺れる様に躯を寄せる。

「咲織の母の美沙でございます。 どうぞ、おあがりください。」
 暫く振りに見る母の顔は咲織でもぞくりとする程に美しかった。 

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☆ 長らくお付き合い頂いたこの「アンドロメダな朝」もいよいよ後2,3回となりました。 最後までお付き合いくださいますようお願いいたします。

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☆ その2635=居心地の悪さ。

 白い絹地のブラウスの上から落ち着いた朱色のカーデガンを柔らかに羽織った母の肩は咲織の中に描かれていたそれよりもずっと小さく儚げに見えた。 男ならばその腕で支えずにはいられなくなる、そんな肩だった。 その肩を精一杯に張り、母は三宅を出迎えた。 咲織はその母と三宅の顔を交互に見た。 恋人といる時に容姿の優れた女友達に出会ってしまった女のやや不安な眼差しで。 

『母を見たご主人様の眼が一瞬驚いた様に見えた。 母がまだ若く美しかったから? それとも、他に驚く理由が。 ただ緊張されただけならいいけど。 でも、私から見ても、私より、この母の方がご主人様には似合って見える。 年は母の方が一つ二つご主人様より上な筈だけど、もうすぐ四十路には到底見えない。 年は母から女の価値を奪うのではなく、却って魅力を与えている。 何処から見ても清楚で貞淑な女にしか見えない。 見ず知らずの男の手で鞭打たれて、あんな嬌声を上げるはしたなさはみじんも感じさせずに、白々とお父さんを亡くしたか弱い未亡人を演じて・・・。 嫌、嫌。 もし、もし、ご主人様が母の中の被虐性に気がついたら・・・。 母が私とご主人様の本当の関係に気がついたら・・・。 嫌、嫌。 私はただご主人様の奴麗で居たい、居続けたいだけ。』

 咲織は妙な胸の騒めきに足の痛みも躯の奥に埋めたバイブの存在も忘れていた。 挨拶もそこそこに母に促されて書斎に入る三宅の陰に隠れるように付き従う。 自分がマンションに持ち込んだ父が愛用していた安楽椅子の代わりに置かれた目新しいソファに腰を下ろすと、場違いな処に来た様な居心地の悪さを感ずにはいられなかった。

「東京からでは随分とお時間がかかったでしょう。 こんな不便な処までお越し頂いて申し訳ございません。」
 コーヒーを美しい所作で三宅に薦めながら、咲織の母は固い声で言った。 その三宅に向けられた咲織に似た大きな瞳は何処か咎める様な色を宿している。
「いえ、突然の申し出にも拘らず、快くお招き頂いて感謝いたしております。」 
 そう言って母を見る三宅の眼に戸惑いの色を見出して、咲織は胸騒ぎを重ねた。 

「それで、今日はどんなご用件でいらっしゃったのですか。」
 つんと尖った顎をきゅっと引いて、咲織の母は三宅を正面から見据えた。
「はい。 単刀直入に申します。 お嬢さんと、咲織さんと私との結婚をお認めください。」
 三宅はローテーブルに両手を突き、深々と頭を下げた。
「見ず知らずの男がいきなり結婚の申し出をしてきても、すぐにとは参らぬ事は十分承知していますが。 ご覧の通り、親子と言う程でありませんが、私は咲織さんとは年がかなり離れています。 ですが、それだけ私は社会経験も人生経験も積んでいます。 若い人の一時の思いで決めたのではありません。 会社の大先輩の橋本さんにも誓って・・・。」
 三宅が言い終えて、咲織の母の気を伺う様に顔を上げた時だった。 美沙はこれまでの硬かった表情を解き、柔らかに微笑んだ。
「見ず知らずではありません。 一樹さん。」
 美沙の言葉に咲織の心臓が凍えた。

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☆ 長らくお付き合い頂いたこの「アンドロメダな朝」もいよいよ後2回となりました。 最後までお付き合いくださいますようお願いいたします。

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☆ その2636=涙の意味。

「えっ。 では、あなたは・・・。」
 三宅の何時も冷静な眼が驚愕に開かれ、やがて懐かしそうに嬉しげな色を宿した。  
「思い出して頂けましたか。」
 そう言って、三宅を見詰める美沙は女の顔を見せていた。

「はい。 全てはっきりと思い出しました。 あなたの事を一日も忘れた事はありませんでした。 ずっと、心の奥であなたを探していた。 でもあなたにあの時のままの二人で会えるとは思っていなかった。 だから、探していたのはあなた自身ではなく、あなたが私に残して行ってくれた香りだったのかも知れませんが。」
 三宅は真っ直ぐに美沙を見ていた。 その瞳の中に自分が映ってはいないと思い、咲織は痛む胸を両掌で掻き抱いていた。
「まあ、嬉しい事を。」
 美沙の視線が三宅の視線に甘えて絡み付く。 小さな美沙の顔が恥じらいそして一瞬、輝いた。 

『この人が、母が、ご主人様が言われた心に決めた人だった。 そう、そうだったの? それじゃあ、私は、この人の、母の身代わり? 私がこの人の面影を宿しているから。 私が、この人の婬らな血を引いているから・・・。』

 咲織はドレスの上から昨晩付けられた焼印の痕を弄った。 掻き毟る様にその痕を肉ごと摘まむ。 じんと痛みが躯に拡がる。 その痛みに咲織はすっと背筋を伸ばした。

『私はご主人様の奴麗。 死ぬまで、この躯が朽ちるまで、ご主人様に付けられたこの印しが私がご主人様の奴麗だと証明してくれる。 他の誰でもない、私がご主人様の奴麗なんだと。』

 咲織は美沙と言う名の女の顔を正面から見据えた。 

「でも、それはこの子、咲織さんに会うまでの事です。 今はもう美沙さんは咲織さんのお母さんです。 どうか、この子との結婚を許しては頂けませんか。」
 三宅の瞳に咲織の泣き出しそうなそれでいてきりりと心を引き締めた顔が映っていた。 その顔に向かって、咲織はこくりと頷いた。
「許さないと言ったら・・・。」
 美沙も女の顔を剥がしていた。
「そう仰るなら、この子が成人するまで後、一年とちょっと書類上の結婚が伸びるだけです。」
 咲織は机に置かれた三宅の拳をその小さな掌に包んだ。
「それが許されない結婚だとしても、誰にも祝福されないとしても?」
 美沙のアーモンドの瞳には涙が溜まっていた。 

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☆ その2637=女の歓び。

☆ 最終回に当たって。
☆ 今までどのSM小説を読んでもただただ暴力であったり、女性の心理が無視されていたり、肝心なところが掛れていなかったりと隔靴掻痒の感が拭えず、それならば自分が共感、興奮できるSM小説を書いてしまえと始めて、咲織の心の動きを描くうちに完成までに当初考えてもみなかった7年もの歳月が過ぎました。 その間、読んで頂いた方々のアクセス数だけに支えられ、連載2600回越え、原稿用紙にして1万枚越えとこの手の小説では出版されている物も含めて多分最長の異例な小説(ギネス記録である山岡荘八の徳川家康が1万7千枚)を完結することが出来ました。本当に長い間お読みいただきありがとうございました。
P.S. KADOKAWAか、フランス書院、どこか出版してくれないかなぁ。

「はい。 例え、許されない結婚だとしても、例え誰にも祝福されない結婚だとしても、私は咲織と一生を共にします。」
 三宅の言葉に咲織の胸は詰まった。 三宅の手を取り、自分の焼け印の上に置いた。 暖かさが確かに躯中に満ちていく。 
「お願い、お母さん。 許して。」
 声が出ていた。 母の綺麗な顔が咲織の瞳の中で滲んだ。

「咲織、あなたがどれ程この三宅さんの事が好きなのか、そんなことぐらいあなたが三宅さんを見る瞳をみたら、すぐに分かります。 私が認めなくてもあなたは三宅さんに付いていくでしょう。 二人を引き裂こうとしようものなら、あなたは私を刺すでしょう。 躊躇いも無く。 それでいいんです。 そのくらい強く三宅さんを思っているなら、思っていると知ったからこそ、私は何も言いません。 全て、この胸に仕舞い込みましょう。 墓場の中まで。 私と違って、咲織、あなたは心を自分で折らないで。 誰が何と言おうと、女の幸せを掴んで離さないでね。」
 母の瞳で咲織を包むと、美沙は三宅に向き直った。 
「三宅さん、あなたは昔から私には眩し過ぎて見詰められないくらいに真っ直ぐに強い方です。 そして、この子も見かけは如何にもか弱そうで、すぐにも折れそうだけど、実の父の血を引いてか、私とは違って強い子です。 でも、硝子の様に脆くもある。 一樹さん、どうか、この子を、この子の愛を全て受け止めてください。 どうか、嬉し泣き以外の涙をこの子には流させないでください。 私みたいに虚しい涙は決して流させないでください。 誓って頂けますか。 この子の事をこの子を愛してくれた橋本以上に大きな愛で守ってくれると。」 
 美沙は深々と頭を下げた。 栗色の巻き毛が白いテーブルに花開いた。
「はい。 誓います。 この子を一生愛し抜くと。 きっと、いっぱい嬉し涙を流させます。」
 三宅の言葉に上げた美沙の瞳から涙が零れた。 慈母観音を思わせる笑みを浮かべると三宅の前に印鑑を差し出した。 

「ご免なさい。 これ以上、二人を見ているのが辛くって。 不調法をお許しください。」
 美沙は胸に込み上げるものの重みに砕けそうな背をぴんと伸ばし、部屋を出ていった。 

 扉が締められると、咲織は三宅の胸に飛び込んでいた。 その震える小さな肩を三宅はその震えが悦びの発露に変わるまで抱き続けた。 

「鞭をください。 咲織に鞭をください。 肌が裂けるまで。 ご主人様の所有物のこの肌が血を流し、耐えろと言うご命令も聞けなくなるまで、気を失って倒れるまで。」
 三宅の家に戻ると、咲織はドレスを脱ぎ捨て、自ら四つん這いになると丸々と尻を持ち上げた。 三宅の渾身の鞭が飛んだ。 重く長い房鞭は咲織の白い尻たぼで黒々と爆ぜた。
一発で咲織の尻たぼに無数の朱の帯が浮かび上がった。 

『この痛み。 この痛みを忘れません。 咲織は何時でも、何時までもご主人様の物。 ご主人様の奴麗。 自由にこの躯をお使いください。 どんなご命令も心から感謝して、絶対に従います。』

 咲織は啼き声を堪えた。 堪えれば堪える程、思いが高まり確かな形を成していくようだった。 痛みに衝撃に、咲織の華奢な躯は一鞭ごとに崩れ、床に転がった。 その度に咲織は自ら尻たぼを高々と三宅に差し出す。 鞭の痛みが増していく。 白い肌を赤黒く鞭痕が侵食していく。 肌が汚される程、痛みが肉に響くほどに悦びが深く深く肉の中に染み入ってくる。 弄られてもいない秘唇が悦びの露を滴らせた。 

「啼けっ。」
 掛け声と共に柔肌を引き裂いて痛みが肉に爆ぜる。
「あぁぁぁぁぁぁぁ。」
 咲織は憚る事無く、全ての思いを籠めて啼いた。

『嬉しいです。 ご主人様。 もっと、もっと打ってください。 咲織は幸せな奴麗です。 この啼き声は咲織の精一杯の悦びの唱です。』

 啼く度に咲織は逝った。 女の悦びに裸身を震わせて。 

~ 完 ~   

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☆ なお、明日からは「アンドロメダな朝」の番外編となる美沙と一樹の青春時代の邂逅を描く「美沙の凄春」を連載します。実は、第1回の団鬼六賞に応募したものなんです。見事候補作にも残りませんでしたが、読んで頂いて判断してもらえればと思いますが、個人的には我が身可愛さもあって、受賞作より興奮できると思っています。よろしくお付き合いください。

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☆ 美沙の凄春その1=出会い。

☆ 今日から「アンドロメダな朝」番外編「美沙の凄春」を連載いたします。 アンドロメダ同様ご愛読いただけると嬉しいです。

美沙の凄春

『わあ、綺麗な顔。 眩しいくらい。 あんな男の子がいるんだ。 凛々しさの中に子供っぽい幼さと大人顔負けの知性が溶け込んでいる感じ。 それにしても涼しい眼。 爽やかな風が吹くみたい。』

 朝八時の大宮行き京浜東北線。 週に一度、朝一番から授業がある月曜日。 美沙は来週もきっと今日と同じ両目の先頭に乗ろうと心に決めた。 

 少年はすらりとした長身を今時珍しい詰め襟に身を包んで、春の朝陽を浴びて涼やかに戸袋に背を凭せ掛けていた。 時折、横腹を友人らしい幾分子供っぽい丸顔の少年に突かれ、横顔を見せる。 優美な鼻梁と涼しげな眼差し、それに引き締まったそれでいて愛らしい口元。 電車を降りるまで、しばしの目の保養と美沙は魅せられた様に少年を観察していた。 

『あぁ、あんな綺麗な男の子とデートしたかったな。 手を繋いで明るい街を歩き、ショーウインドを冷やかして笑い合う。 映画を見てお茶をしながら批評し合い、美味しい食事をして、ライブハウスで盛り上がって、キスをして。 そう、遊園地もいいな、ジェットコースターで悲鳴を上げる彼をからかって、ちょっと怒った彼のほっぺにキスをする。 ソフトクリームにハンバーガー、きっと綿飴も買って貰おう。』

『彼が新三年生として一つ、二年生だとすれば二つも年下よ。 美沙ったら、意外と年下好みだった? 中学の時に大人の町野教授に初恋したくらいだから、てっきり年上好みだと思ってたのに。』
 美沙は自分の妄想に可笑しくなって、一人吹き出しそうになっていた。 

「次は鶯谷、鶯谷です。」
 車内アナウンスが流れ、列車がホームに入る。 美沙は慌ててドアに向かった。美少年の右手のドアが開いた。 通り過ぎる瞬間、少年と眼が合った。 二人の間を何かが走った気がした。

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☆ 美沙の凄春その2=会うのが怖い。

 次の週
「あのぉ。」
 美少年に心を奪われていた美沙に童顔の方の少年が声を掛けてきた。

「お名前を教えていただけませんか? あっ、僕は飯田、飯田雅士、開成の三年です。」
 少年は頬を染めた。美沙はニキビを二つ三つ浮かべた少年の生真面目な顔に思わず微笑んだ。 
「山野美沙です。 芸大音楽科の一年生。」「じゃあ、そのバッグの中は楽器ですか。」
「そうよ。 フルート専攻なの。」
「フルートかぁ、素敵だなぁ。 お好きな曲は何ですか。」
「フォーレのシチリアーナ。 ただいま練習中。」
「また、話して貰えますか。」
「もちろん。 電車の中は暇だもの。 あなたのご友人と違って。」
 美沙は戸袋に背を凭せ掛けた少年を見た。 朝陽が横顔をシルエットに輝かせていた。
「あいつ、三宅一樹って言うんだけど、あいつは家で勉強しない主義だから、その分通学時間と学校だけは真面目に時間を使うんだって。 僕は、家で勉強させられる分、逆に電車の中ではぼーっとしていたいんだけど。」
「電車の中でぼーっとと言うなら私と一緒ね。」
 二人は笑顔を見せ合った。 

『そうか、彼は三宅一樹って言うんだ。 知的でしっかりした名前。 あの凛とした姿にはぴったり。』
 美沙の心に三宅一樹という名前が明るい春の陽射しと共にすうーっと入った。   
 
 それから暫くして、美沙はその車両に乗らなくなった。 いや乗れなくなったのかも知れない。 大人になったばかりの時、自分の中の子供の部分を、青い心を追い出したくなる様に、美沙はその少年を心の隅から追い遣っていた。 本当は少年を見るのが怖くなったと言うのが真相だった。

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☆ 美沙の凄春その3=小骨。

 まだ春と言うには肌寒さの残る日だった。 
演奏し終わると美沙はフルートから口を離す前に町野の顔色を窺っていた。 自分でも意識しない瞳の動きだった。 町野の優しい目尻の皺がふーっと濃くなり、顔全体に嬉しそうな笑みが拡がった。 自ら演奏したフィオーレ「シチリアーナ」の甘く柔らかな旋律に満たされた美沙の心に町野の笑みが沁み込んでくる。

『良かった。 先生に歓んで頂けた。』
 美沙は陽射しを受けて輝くフルートを顔から下ろし、濃桃色の唇をふわりと綻ばせた。 漆黒のショートヘアを軽やかに揺らして深々と頭と下げると、それが合図だった様に教室の空気が学生達の拍手に揺れた。

 町野もピアノの前で立ち上がり、自然な拍手を送っている。
「凄く良かったよ。 今の演奏なら、上級生に混じって、モーニング・コンサートに出ても可笑しくない。 ただちょっと気になる点があった。 後で私の部屋に来てください。」
 伴奏のお礼に近づいた美沙に町野は穏やかにそう告げると、美沙の返事を待たずに次の学生に演奏を促していた。

『気になる事って何かしら。 何処もミスはしなかった筈。 何か曲の解釈に問題でもあったのかしら。』
 町野の言葉が小骨の様に胸に引っ掛かり、聴かなくてはと思いながらも他の学生の演奏は美沙の耳をただ通り抜けていた。

「今日の演奏は本当に良かった。 シチリアの陽光あふれる穏やかな春が感じられた。」
 町野は教授室の応接セットで畏まる美沙に静かに話し始めた。
「でも、先程先生は気になる点があると仰いましたが。」
 町野の笑顔にほっと心を和ませた美沙の口から聞きたかった質問がすんなりと出た。

「あぁ、大したことではないんだが。 山野君は好きな人はいますか。」
 町野は一瞬躊躇った後に軽やかに聞いてきた。

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☆ 美沙の凄春その4=アーモンドの瞳。

『どうして、そんな事を。 今日の演奏と何か関係が。 どう答えればいいの。 好きな人は眼の前にいますなんて言えない。 中学の時に演奏を聞いてからずっと憧れていたなんて。』
眼の前の町野の姿に舞台の上で清らかな旋律と一体になったあの日の町野の姿が重なった。 美沙はまだ十五だったあの日、初めて心が震えるのを知った。 演奏が終わった時には割れるようなスタンディングオベーションの波の中でただ一人、止めどない透明な涙に立ち上がれなかった。 その想いが胸に鮮やかに蘇る。
 
美沙の頬にみるみる紅が挿していった。 まだ幼さの残る清楚な顔がより子供っぽく見えた。 それでいて男なら掌を伸ばさずにはいられない艶がひっそりと、しかし、しっかりと隠れていた。 

「いないのでしょう。 と言うか、まだ本当の恋さえしていない。 違いますか。」
 町野は楽しげに笑った。 人好きのする口元がきゅっと上がった。 
「そんな。 恋ぐらいした事あります。」
『一樹って言ったっけ。 あの綺麗な男の子。 何を考えているんだろう、私。』
 美沙はくりっとしたアーモンドの瞳をきっと上げて町野に向けた。 幼さがすっと影を潜め、はっとするような艶香がぱっと立ち上る。 

「ははは。 そう向きにならなくても。 山野君は遅生まれだからまだ十八でしょう。 本当の恋を知らなくても当然ですよ。」
「本当の恋です。 いい加減な気持ちじゃありません。 だって、もう何年も思い続けているんですから。 それに、そんなことと今日の演奏と何か関係があるんですか。」
美沙は強い口調で反論した後、急にもじもじとソファの中で細い肩を一層縮めた。 その姿を子猫を甘やかす様な眼で町野は眺めていた。

「判った。 判った。 でも、もしかしてその想いは片思いじゃないかな。 失礼。 決して責めても非難してもいないですよ。 ただ、山野君のフルートから何て言うのかな、艶と言うかシチリアーナに込められた痛みにも似た恋の歓びが響いて来なかった。 今の清らかで爽やかな演奏もまた十分に魅力的だけど、しっとりした女性の音も聴いてみたいと思ったんだ。」
 町野は美沙を宥める様に言葉を選んで話した。 いつの間にか腕を伸ばし、美沙のさらさらした髪をあやしていた。

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☆ 美沙の凄春その5=憧れ。

『私のシチリアーナは子供の演奏だと仰るんですね。』 
 美沙は真っ直ぐな視線を町野に向けた。
「じゃあ、先生が恋を教えてください。」
言っては駄目だと思いながらも、胸に溜まった想いが言葉になって零れるのを抑えられなかった。 想いを口にしてしまうと恥かしさが躯を襲い、躯が震えた。

「あっ。」 
 小さな叫びは町野の口で塞がれた。 町野は唇を付けたまますっと美沙の傍らに移動してきた。 驚きに力を無くした美沙のか細い肩が町野に包まれる。 

『あぁ。 こんな所で。 でも、でも、嬉しい。 』
 華奢な背に町野の力強さを感じる裡に、美沙の腕が自然と町野に廻されていた。 

元々骨の細い美沙の躯は華奢ながら、柔らかくぴったりと町野の体に填っていく。 町野は力いっぱいに美沙を抱きしめた。 背骨が軋み、その辛さに薄っすらと開いた美沙の唇に舌が差し入れられる。 町野の舌先が歯の裏を、そして上顎をと美沙の口の中の粘膜を擽っていく。 

美沙の胸の内に熱いものが湧きあがり、美沙は町野の舌を求める様に自らの舌を絡めていった。 町野の舌に誘われるままに美沙はおずおずと舌を町野の口の中に差し入れていく。 町野が自分にしてくれたのと同じ様に舌先を動かそうとした瞬間、強い力で吸われた。 舌の根からもぎ取られる様な痛みが美沙の下腹にずぅんと響く。 その痛みに躯中の力が抜け、代わりにむずむずと痒い様な痺れる様な悦びが込み上げてくる。 美沙の華奢な躯がひくっひくっと震えた。

「本当の恋を教えていいんだね。」
 町野は勝者の余裕を笑みに湛えて言った。
「はい。 教えて下さい。」  
 美沙は恋に濡れた瞳で町野を見上げていた。

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☆ 美沙の凄春その6=穢れなき少女。

『もうこんな時間。』
 その週末、美沙はワードローブの前で優美な眉を顰めた。 未だ陽も高い時刻から気が急き、何を着ていこうかと思案し続けていた。 これとようやく決めて袖を通し、鏡に映る余りに幼い姿に落胆したのが最初だった。
 
『今夜、多分私は女にされる。 ううん、女になるの。』
 その思いが美沙を捉え、逡巡させた。 次々に服を着ては落胆した。 どれもこれも今まで着てきた服は子供っぽくて、大人になろうとする自分には似合わない気がした。
 昨日の晩から、課題曲を練習していても、楽しみにしていたビデオを見ても胸の柔らかい肉に小骨が刺さった様に躯の何処かが微かに痛み、落ち着かなかった。 それは、昔修学旅行を前にした時のわくわくとした焦れったさとは違うものだった。
『私は何を怯えているの。 中学の時から憧れ続けた先生とのデートだと言うのに。 先生を独占して、いっぱい好きな音楽の話が出来るというのに。 先生なら、きっと素敵な本当の恋を教えてくれる。 何も怯える事なんて無い。 だって、先生はあんなに素敵であんなに優しいのだから。』
 何度自分に言い聞かせても胸に刺さった小骨は取れなかった。 いや、時間が経つにつれて、それは大きくなり、痛みすら感じる程になった。 

『何を恐れているの。 私は私だもの。 そう、未だ子供。 それで先生に呆れられても仕方ないじゃない。 だって、そう、先生は本当の恋を教えてくれると仰ったんだから、これから大人になれば良いの。 ゆっくりと。 今の私を見て貰えばいい。』 
 心より躯が感じている不安を時計の針で切り捨てて、美沙は一番のお気に入りのワンピースを着込むと家を出た。 陽は未だ高く、空気の中を光り粒が躍って見える程、春の空気は弾んでいた。 胸に入れた空気がふわふわと心地いい。 

『そう。 せっかくのチャンスなんだから、楽しまなくっちゃ。』 
 美沙は柔美な唇の端を意識的にきゅっと上げ、自分に微笑みかけた。 地下鉄の窓に凛と微笑む少女の顔が映る。 その顔は何処までも穢れを知らぬ気に透明な輝きを放ってみえた。

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☆ 美沙の凄春その7=口づけの甘さ。

 地下鉄を赤坂見附で降りると首都高の下をくぐってお濠を渡る。 右手の桜並木の若葉が陽を透かしてきらきらと光って見えた。 美沙は背筋を伸ばした。
 古びたホテルの玄関ホールに光の粒が舞っていた。 その広くは無いホールに町野の姿は無かった。 美沙の胸に寂しさと不安とそしてほっと安堵が一緒に訪れる。 

『待ち合わせよりちょっとだけ早く着けた。 良かった、先生をお待たせしなくて。』

 一脚の椅子も無い石造りのホールの中央で足を止め、辺りを見渡した。 ホールの右手に伸びるオークの落ち着いた階段の脇に小さな小部屋への入り口があるのに気づく。 美沙はもしやと思い、中を窺った。小部屋の中は高い位置にあるステンドグラスを通して差し込む光に夢で見る深海の青に揺らいでいた。

「や、ここだ。」
 町野の晴れやかな笑顔が幻想的な光の中で一層魅惑的に見えた。  
「お待たせしました。」
 町野の笑顔と優しい声に美沙の胸に刺さっていた小骨は瞬時に消え去り、会えた歓びに高鳴った。 美沙の顔が、十八歳の娘の生気で輝く。

思わず小走りに駆け寄る美沙を町野は両手を拡げて迎えた。 美沙の華奢な躯は自分でも知らない裡にすっぽりと町野の腕の中に包まれていた。 思いもかげず強い力で抱き締められる。 細い美沙の骨が軋むかと思う苦しさは、美沙の中ですぐに悦びに形を変えた。 背中に感じる町野の腕の強さが何よりも心地よい安らかさを伝えてくる。 
「あ・・・。」
 言葉にする間も与えられず、美沙の唇は塞がれた。 敏感な唇に押し付けられた町野の唇の暖かさが美沙の心を蕩けさせる。 掌に触れるシルクの上着の柔らかさが心地いい。 町野がするように美沙も思いの丈吸い返す。 町野の舌が美沙の唇をノックしてくる。 美沙は無意識の裡にふわりと唇を開いて町野を迎え入れていた。  
 町野の舌は名高いフルート演奏家の技巧を見せて、美沙の口の中を柔らかに甘く、そして時に激しく刺激してくる。 それにつられる様に美沙の舌も町野の口の中に自然に入っていく。

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☆ 美沙の凄春その8=フルートの音色。

『暖かい。 躯の中に入ってくる暖かさ。 躯が胸から熱くなってくる。 力が抜ける。』 
 美沙は町野がする様に、おずおずとしかし情熱に駆られて町野の口の中を嘗めまわした。 薄い背中を掻き抱く町野の掌が恋に脈打つ項(うなじ)を包み、強く締め付けてくる。 

 息の出来ない苦しさが生きている実感を美沙に抱かる。 恋の歓びが揺り起こされる。 町野は美沙の舌を唇で包むように嘗めまわし、舌を絡めた。 絡めたまま強く強く吸われ、舌に繋がった躯の芯が軋み、引き攣れる。 その肉体の苦しみが下腹にじーーーんと沁み渡り、逆に心は痛みを与えている町野への愛しさで満たされていく。

『もっと、もっと吸って、強く。 好き、やっぱり好き。 先生の事が好きだったのね、こんなにも私は。 始めから、こういう風になりたかったんだわ。 あの日に初めて見た時から、あのフルートの音色を聴いた時から。』

 窒息しそうな白い脳裏を町野への想いが渦を描いて駆け巡った。 つんと伸ばしたハイヒールの足が覚束なく、町野の力強い腕に華奢な躯が頼っていた。

「最高のアペリチフをありがとう。 ここのフォアグラは美味しいよ。」 
 町野は息も絶え絶えに柔らかな頬を上気させている美沙の顔を見て、満足げに微笑んだ。まだ夢の中の虚ろな瞳を町野に向けている美沙の腰を抱いて階段を上がって行く。 通されたのは広間ではなく白い壁とアクセントに使われている金が美しい小部屋だった。
そのやや現実から遊離した空間で黒のジャケットを粋に着込んだ町野の姿は一幅の絵のように見えた。
  
「君の初めての大人の恋に。」
 町野はシャンパングラスを小粋に掲げた。 美沙も照れながら応じる。 

『はい、私の恋に。 大人と言うのは躯の関係と言う事? それなら、覚悟は出来ています。 それで、私のフルートに艶が出るかどうかは判らないけど、いつかは大人になるんだもの、先生の手で大人にして貰えるのなら最高。 私は幸せ者。』

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